京都大学の山中教授らのグループが世界ではじめてヒトの体細胞から「万能細胞(ips)」をつくることに成功した。
失われた組織や臓器を元通り修復する再生医療の実現に向け大きな光がみえてきた。まさしく世界的な研究の成果である。
これまでは受精卵や胚などを壊して取り出す胚性幹細胞(ES細胞)が研究の対象であった。子宮に移植すれば胎児となり人間の固体となる生命の萌芽である受精卵や胚を壊すこの方法には倫理的な問題が多かった。従って米ブッシュ政権はES細胞研究への予算支出を拒否し、欧州も倫理問題から研究促進をためらっているのが現実である。
またマスコミを騒がした韓国での中心的研究者の論文ねつ造事件は有名である。こうした実情から今回の皮膚細胞からヒトの万能細胞をつくったことは画期的であり米ブッシュ大統領も米国での同様の研究成果を絶賛し支援するとまで言い切った程である。
私にとってもこの研究は他人事ではない。・・・と言うのは、この分野の研究についての法律案の作成に携わったからである。
当時いわゆるクローン技術の研究利用を世界各国が競争するようになった。
しかしクローン技術によって人間を誕生させることも理論的には可能となるようなこともあり、この研究には一定の制限をつける必要があるという意見が多くなり法律案の作成が進んだ。
民主党もそうした観点から法案作りに力を入れたものである。私はその責任者の一人であった。そして基本的に科学というものへの政治の関わりは極力さけるべきではないかという考え方のもとでの検討であった。
その中で、ES細胞の場合の「生命」とは何か、どのレベルから生命といえるのか、生命の萌芽は生命そのものではないのか・・・といった論議を延々と繰り返したものである。そして常に人類の夢でもある再生医療実現という目標と生命の尊重ということの両立を図ることを大原則としたものであった。
そして民主党案を取りまとめ国会に法案として提出し、政府案と一緒に委員会での審議となった。
私も法案提出者として与野党議員の質問の答弁に立った。最終的に政府案と民主党案の話し合いがまとまり政府案の修正という形での全会一致で「ヒト胚等の作成及び利用の規制に関する法律案」が成立したのである。
その時の熱い論議を思い出すと改めて今回の研究結果の素晴らしさを実感するものである。