友人に薦められて石光真清の手記集を読んだ。
「城下の人」(中公文庫)をはじめ4部作である。
久しぶりにおもしろく一気に読んだ。
著者は明治元年に熊本に生まれ子どもの頃に西南戦争を体験し、やがて軍人となり日清戦争に従軍するなど激動の時代を生き抜いた人でありその自分史でもある。
著者自身が体験してきた事実そのものであるが由に小説とはまた違った意味で興味深くかつ感動的である。
同時に著者しか知らないと思われる歴史的事実もあり、その意味からも大変おもしろく興味がつきない。
また時代を見抜く目、あるいは時代を越えて変わらぬ生き方などに関しての示唆に富み教えられる内容も多い。
まさに日本の歴史そのものといっても過言ではない重厚感に満ちている。
また私には司馬遼太郎の「明治という国家」や江藤淳の「漱石とその時代」などに共通する「凛」とした空気の中にあった明治を実証してくれる感がある。
著者の兄が恵比寿会社(現サッポロビール)の再建に協力を求められた時・・・
「これからの事業は個人の手腕、力量だけではやれない。
資本と信用と組織だ。
けれどもその中で一番大切なのはやはり昔通り信用だ。
信用だけは買うことも譲ってもらうことも出来ないものだ。
信用のない人間を集めていくら立派な組織を作っても、いくら莫大な資本を積んでも事業は成功しない。
君が生まれながらにして備えている正直と誠意を信用してこの事業の再建を任せたい。」
と言われ引き受けるのである。
明治25年の話である。
今年を象徴する文字は「偽」であるが、明治の頃のこの言葉がいまの我国には一番必要なのではないだろうか。
この正月にお薦めしたい本である。