この4月から75才以上のお年寄りを対象とした新しい医療制度がスタートした。
後期高齢者医療制度である。
名称も批判が続出して、慌てて長寿医療制度という呼び方を使ったりと政府の対応はおそまつである。
この制度は2年前の小泉内閣の時に成立した医療制度改革関連法案である。
この時も民主党と他の野党の強い反対を押し切って、与党の強行採決で成立したものだ。
2年前に決定していたものの、この間政府は国民への事前の対応を怠ってきた。
今月になって新保険証が届き、年金からの天引きを知ったお年寄りが役所に殺到したり、問合せの電話が鳴りっぱなしという現状である。
制度自体が高齢者の医療費の圧縮という狙いであるが由に、政府の対応は丁寧さが何よりも大切なはずである。
にもかかわらず、全くそうした姿勢がないのである。
ひどい話である。
多くの人が怒るのも当然である。
こうした実態を目の当たりにするといつも心している言葉を思い出す。
「理に適(かな)い、法に適い、情に適い」という言葉である。
このことを私に教えてくれたのは山田精吾(元連合事務局長・故人)さんである。
「城島君、リーダーとして大切な心構えは、どんなにすぐれた理論や理屈に裏付けられた方針や政策でも法律に適合していることは当然だが、それ以上にその方針や政策そのものが、そしてそれを実践するに当っては人の心に合致しているかどうか、人の心、人の情にしっかりと思いをはせて対応しないとうまくいかないよ!」
といわれた。
そしてその時、山田さんはこの言葉を室原知幸氏(故人)の闘争から学んだという趣旨のことをおっしゃった。
室原氏は昭和32年から約10年間にわたって大分県の下筌(しもうけ)ダム建設の反対闘争のリーダーだった人である。
昭和28年6月に集中豪雨により筑後川が氾濫し死者140名を出した大水害があった。
私の住んでいる近隣でのそのすさまじい災害状況は小学1年生の私にもひしひしと感ずるほどの大災害であった。
今でも記憶にある。
その大水害をもとに、筑後川の治水計画からでてきたものが上流での下筌(しもうけ)ダム建設構想であった。
こうした構想がでてくるのは、それこそ理に適ったことであった。
そのダム計画で水没する地域の一つである小国町の町議会議員も務めたこともあり、山林の地主でもある室原氏自身も当初はダム建設は仕方のないものという主張をされていたという。
しかしやがて後世にも残る有名な命懸けの反対闘争に駆り立てたのは、水没する地に住む住民への国(行政)のあまりにも冷たい対応であったという。
人の心を無視したような国の対応に怒った貧しい地域の農民の方々の強い要請を受けて立ち上がり、最後はただ一人になっても約10年間戦いつづけた人である。
蜂の巣城の攻防として当時は日本中で有名になった。
そのダム建設は理に適ったものであったことは間違いない。
室原氏はもとより、おそらく水没する地に住む人たちもそのことは理解していたと思われる。
しかし国の対応が、まさにお上意識であったという。
即ち、人の情に適わなかったのである。
そのことが歴史的な大闘争の最大の要因であるという。
「理に適い、法に適い、情に適い」
時を越えて常に心がけるべき大切なことだと思う。