昨年の10月1日に財務大臣に就任した。その時に先輩である藤井裕久先生に「おめでとう。大臣に就任したら先輩大臣の肖像写真をじっくり見ることだよ」と言われた。
実は財務省の4階には講堂がある。大臣就任及び退任の挨拶はここで行なう。その講堂には初代からすべての大臣の肖像写真が掲げられている。
初代は明治2年、松平慶永(春嶽)である。私は初代から通算して126代71人目の大臣である。
この間、大久保利通(第3代)、大隈重信(第4代)、高橋是清(第23・25・32・35・37代)は5回も大臣を務めており、戦後では石橋湛山(第54代)をはじめとして池田勇人(第59・65・66代)、佐藤栄作(第68代)、田中角栄(第71・72・73代)、福田赳夫(第74・77・78・82代)、大平正芳(第83・84代)、竹下登(第90・91・94代)、宮沢喜一(第92・93・109・110・111代)、橋本龍太郎(第97・98・107代)などが続いている。
就任してやっと時間がとれ2階の大臣室から4階へ昇っていき70人の大臣の肖像写真を見てまわった。なるほど、どの写真も時代を背負った中で深みと重みを感じる顔である。とりわけ、若い頃読んで感銘を受けた城山三郎の「男子の本懐」の主人公の濱口雄幸(第29代)、井上準之助(第34代)、そして高橋是清の写真の前ではしばらく立ち止まってしまった。まさしく厳しい国家財政と塗炭の苦しみの国民生活を一身に背負い苦悩の中、命がけの決断をした人達である。その当時の心境に思いをはせながらしばらく立ちつくした。
先週やっと私の肖像写真を財務省に渡した。いろいろ考えた末にカラー写真でなくモノクロ写真にした。
肖像写真にはその方がふさわしいと思ったからだ。自分なりに大臣として全力投球した3ヶ月であったが、見る人にとってもそういう感じで受けとめられたら有難い。