先日発表された国税庁の「民間給与実態調査」によると、民間企業に勤める人が昨年一年間に得た平均給与は434万9000円で前年を1万9000円下回り、これで何と9年連続で減少したことになる。
また給与所得が200万円以下だった人は全体の22.8%の1022万8000人と1000万人を超え、4年前より169万8000人も増加した。
今や我国は民間企業で働く人の5人に1人は年間の給与が200万円以下、即ち月平均にすると月給与が16万6000円以下という、働く人にとっては誠に厳しい国の実態となった。
まさに「美しい国」などと言う状況からはおよそ大きくかけ離れた「寒々とした国」ではなかろうか。
こうした実態に対して「これは世界的傾向であり、世界的な経済の構造変化の潮流によって引き起こされた不可避的な現象である。そして対応策として対処療法としては所得再配分政策が必要だし、長期的には新技術に沿った教育改革が必要だ」とする見方がある(小林慶一郎氏9/29朝日新聞「けいざいノート」より)。
私はこの見解は部分的にはその通りだと思う。
しかし我国で急速に進んでいる賃金格差は、この10年の数回にわたる派遣労働法の改正によるところが大きいと思っている。
しかも問題は欧州と異なり男女の均等処遇についての法整備が実質的に全く手つかずの中で、労働の流動化政策としての雇用の規制緩和が一気に進められたことが、この悲劇を生んでいる一番の原因と思う。
従って今一度働く人の立場に立った雇用ルールをつくることが、この賃金格差問題の解決の重要なポイントの一つであると思う。
あの市場主義者グリーンスパン前FRB議長も今日の日経新聞の「世界を語る」という中でこの問題について次のように述べている。
「新しい発明と歩調を合わせて人々の技術的能力が高まるわけではない。低い技能しかない人は賃金が低下し、高技能の人は給与が大幅に上がっている。民主社会にとっては危険な傾向だ。富が公平に分配されていると人々が思わなければ、資本主義への支持も得られない」
全く同感である。
グローバル化時代においても人を大切にする、即ち労働の尊厳をしっかりと維持する社会こそが本当の「美しい国」であると思う。